初回の打ち合わせで、設計者が鉛筆でさっと描いたスケッチを見せる。施主の方が身を乗り出して、「ここに大きな窓があるんですね」と話し始める。

ところが同じ施主の方が、契約の直前になると「実際の色と素材で見てみたい」と言い出す。手描きパースとCGパースの違いは、どちらが優れているかという話ではありません。計画のどの段階で、何を確かめたいかによって、向いている表現が変わるという話です。

この記事では、両者の違いを表現・修正・費用・使う場面の観点で比べたうえで、検討段階ごとの使い分けと、手描きのスケッチをもとにCGパースを依頼するときの注意点をまとめます。

深い軒と大きなガラス面が特徴の2階建て建物を晴天の昼に描いた外観CGパース
深い軒と大きなガラス面が特徴の2階建て建物を晴天の昼に描いた外観CGパース

手描きパースとCGパースの違いとは

手描きパースは、設計者やパース作家が鉛筆やペン、水彩などで描くパースです。線の強弱や塗り残しによって、見せたいところを強調し、それ以外をあえて省略できます。

CGパースは、図面をもとに建物を3Dでモデリングし、素材と光を設定してレンダリングするパースです。寸法どおりに空間が再現され、素材の質感や時間帯の光まで、写真に近い精度で確認できます。

違いを整理すると、次のようになります。

手描きパースCGパース
表現省略と強調ができる。雰囲気や設計の意図が伝わりやすい寸法・素材・光を正確に再現できる
正確さ描き手の解釈が入る図面どおり
修正大きな変更は描き直しになるモデルがあれば、素材の変更やアングルの追加がしやすい
向いている段階構想、初期の提案素材の検討、承認、販売

表にすると対照的ですが、実務では「どちらか一方」ではなく、段階によってリレーのように使い分けられることがほとんどです。

手描きパースが向いている場面

手描きパースの強みは、決まっていないことを、決まっていないまま見せられることです。

構想の段階では、外壁の素材も窓の大きさも、まだ揺れています。そこで写真のようなCGを見せると、施主の方は細部に目が行き、「このタイルの色は」「この照明は」と、まだ決めなくてよいことに話が流れてしまいがちです。手描きのスケッチなら、余白が残っているぶん、空間の構成や光の入り方といった大きな方向性に集中して話ができます。

打ち合わせの場で、その場で描き足せるのも手描きならではです。「この窓をもう少し大きくしたら」という会話に、その場で線を一本加えて答えられる。このスピード感は、CGにはまねできません。

CGパースが向いている場面

一方で、計画が具体的になるほどCGパースの出番が増えます。

外壁を2つの素材で迷っている、床材の色で家族の意見が割れている。こうした判断には、実際の質感と光で比べられることが欠かせません。同じモデルとカメラのまま、素材だけを変えて並べられるのはCGの大きな利点です。注文住宅の打ち合わせでの使い方は、注文住宅の打ち合わせでパースを活用する方法で紹介しています。

大理石調の壁とリング状の照明、白いソファを描いたリビングの内観CGパース
大理石調の壁とリング状の照明、白いソファを描いたリビングの内観CGパース

販売や広告の段階でも、CGパースが基本になります。購入を検討する方は、完成後の姿をできるだけ正確に知りたいと考えているからです。手描きの雰囲気は魅力的でも、広告では「実際はどうなるのか」という問いに答えにくくなります。

素材の質感や光の入り方そのものが提案の価値になる場面でも、CGが力を発揮します。下の画像は、当社がNOT A HOTELのコンペ案件で制作したCGパースです。岩肌の質感や、ガラス越しに入る自然光のように、手描きでは伝えにくい要素まで描き込んでいます。

巨大な岩に囲まれた別荘のリビングを、素材の質感と自然光まで描き込んだ内観CGパース
巨大な岩に囲まれた別荘のリビングを、素材の質感と自然光まで描き込んだ内観CGパース

検討段階ごとの使い分け

計画の流れに沿って整理すると、使い分けはもう少しはっきりします。

構想・初回提案の段階では、手描きのスケッチが向いています。方向性を共有することが目的なので、細部まで描き込む必要はありません。

基本設計の段階に入り、ボリュームや窓の配置が固まってきたら、CGを検討するタイミングです。形や光の入り方を、寸法どおりの空間で確認できるようになります。

実施設計から承認の段階では、素材と色、照明まで含めたCGパースで、施主の方に最終的な判断をしていただきます。ここでのパースは、そのまま工事の前提になる「約束」に近い役割を持ちます。

販売・広報の段階では、写真に近い表現のCGパースが中心になります。ここで使うパースは、それまでの打ち合わせ用とは目的が違うため、構図や時間帯を改めて検討することもあります。

切り替えのタイミングとしておすすめしたいのは、素材や色を決める打ち合わせが始まった時点です。手描きのまま進めると、完成してから「思っていた色と違う」というずれが起きやすくなるためです。

手描きのスケッチをもとにCGパースを依頼するとき

構想段階の手描きスケッチがある場合、CGパースの依頼時にあわせて渡しておくと役に立ちます。

このとき大切なのは、スケッチと図面の役割を分けて考えることです。スケッチから伝わるのは、雰囲気や視点、強調したいポイントです。一方で、寸法や高さはスケッチからは正確に読み取れません。CGは寸法どおりに空間を再現するため、図面がないと「スケッチに似ているけれど、実際の建物とは違う」パースになってしまいます。

そのため、スケッチと一緒に平面図と立面図を渡すのが理想です。スケッチのアングルをそのまま再現したい場合は、その旨も伝えてください。手描きのスケッチは遠近が意図的に誇張されていることがあるため、CGで同じ印象を出すにはカメラの画角を調整する必要があります。

図面がまだ手描きやPDFしかない場合の進め方は、建築パースの依頼に必要な図面・資料一覧で詳しく説明しています。

情報の受け取りから設計書の分析、仮モデル作成、視点の選択、プレビュー送付までのCGパース制作工程を示した図
情報の受け取りから設計書の分析、仮モデル作成、視点の選択、プレビュー送付までのCGパース制作工程を示した図

CGパースの制作は、資料の受け取りから仮のモデル、視点の決定、プレビューの確認という順に進みます。スケッチは、このうち視点を決める段階で特に参考になります。工程の全体は建築パースの制作の流れを7ステップで解説した記事をご覧ください。

費用と時間の考え方

手描きパースは、1枚ごとに描き上げる表現です。同じ建物を別の角度から見せたい場合や、大きな変更が入った場合は、基本的に描き直しになります。

CGパースは、最初のモデリングに時間がかかる一方で、モデルができてしまえば、アングルの追加や素材の差し替えがしやすくなります。打ち合わせで何度か修正が入りそうな案件や、複数のカットが必要な案件ほど、この差が効いてきます。

当社のCGパースは、一戸建て住宅向けのGrade Bで1アングル40,000円(初回20,000円)です。Gradeごとの料金は建築パース外注のご案内ページに掲載しています。価格だけでなく、パースにどこまでの役割を持たせるかという視点での比較は、低価格の建築パースと戦略的CGの違いを解説した記事も参考になります。

よくあるご質問

Q. 手描きのスケッチしかない段階でも、CGパースはつくれますか?

A. CGパースは寸法をもとに空間を再現するため、平面図と立面図があることが前提になります。スケッチは雰囲気や視点を伝える資料として、図面とあわせて使うのが理想です。

Q. CGパースは冷たい印象になりませんか?

A. 冷たく見えるかどうかは、光と素材の設定でほぼ決まります。夕方の柔らかい光や、人や家具を入れた生活のシーンを描くことで、温かみのある印象に仕上げることができます。

Q. 構想段階は手描き、承認からCGという進め方でも問題ありませんか?

A. 理にかなった進め方です。手描きの段階で決まった視点や雰囲気をCGに引き継げるよう、スケッチもあわせて渡しておくとスムーズです。

手描きパースとCGパースは、優劣ではなく役割で選ぶものです。方向性を共有したい構想の段階では、余白のある手描きが話を前に進めます。素材や色を決め、施主の承認を得て、販売につなげる段階では、寸法と質感を正確に再現できるCGパースが欠かせません。切り替えのタイミングの目安は、素材を決める打ち合わせが始まったときです。

Basic9studioのCGパースについては建築パース制作サービスのページで、VR360や動画を含む制作メニューはサービス一覧でご紹介しています。図面と手元のスケッチをご用意のうえ、お問い合わせフォームからご相談ください。