リノベーションのパースを前にして、施主の方が思わず口にする言葉があります。「本当に、この部屋がこうなるんですか」。
新築と違って、リノベーションには「今の姿」がすでに目の前にあります。暗い台所、細かく仕切られた和室、くすんだ床。毎日その空間を見ている方ほど、図面だけで完成後を思い描くのは難しくなります。だからこそ、工事の前に完成後の空間を一枚で見せられるかどうかが、提案の通りやすさを左右します。
この記事では、リノベーションのパースならではの作り方と、ビフォーアフターの見せ方、既存の建物だからこそ起きやすい失敗についてまとめます。

目次
リノベーションのパースは、新築のパースと何が違うのか
一番の違いは、動かせないものがあることです。
構造上抜けない柱や梁、マンションなら位置を変えにくい配管スペース、共用部にあたる窓やサッシ。新築なら図面どおりに描けば済むところを、リノベーションでは既存の条件を正確に拾ったうえで、新しい仕上げや間取りを重ねていく必要があります。
もう一つの違いは、見る人が「今の部屋」を知っていることです。新築のパースは比較する対象がないため、多少理想化されていても違和感を持たれにくいものです。リノベーションでは、見慣れた部屋と比べながらパースを見るので、天井の高さや窓の大きさが少しでも違うと、すぐに気づかれます。そこで信頼を失うと、提案そのものが疑われてしまいます。
リノベーションのパースが役立つ3つの場面
1. 個人の施主への提案
中古の戸建てやマンションを購入してリノベーションする方は、工事費とデザインの両方で迷っています。床材の色、キッチンの向き、壁を抜くかどうか。言葉と図面だけではまとまらない打ち合わせも、パースを挟むと判断が進みます。
2. 買取再販の物件販売
中古物件を買い取ってリノベーションし、再販売する場合、工事中や着工前から販売活動を始めたいというケースがあります。この段階では写真が撮れないため、完成後の室内をパースで見せることになります。広告に使う場合は、完成予想図である旨の表記など、媒体のルールを販売担当の方と確認しておくと安心です。広告での扱いについては、マンションの完成予想図をまとめた記事でも触れています。
3. 店舗・オフィスの改装
営業を続けながら改装する店舗や、テナントの入れ替えに伴うオフィスの改装では、本部やオーナー、テナントなど関係者が多く、承認の場が何度もあります。完成後のパースが一枚あると、その都度の説明がぐっと楽になります。
作り方。リノベーションのパースを現況写真と実測から起こす
リノベーションのパース制作で最初にぶつかりやすいのが、既存の図面がない、あるいは古くて今の状態と合っていないという問題です。築年数の経った建物では、珍しいことではありません。
その場合は、現地での実測と現況写真をもとに、まず「今の部屋」を3Dで正確に起こすところから始めます。天井の高さ、梁の位置と大きさ、窓の高さと幅、床の段差。ここを丁寧に再現しておくことが、説得力のあるパースになるかどうかの分かれ目です。
そのうえで、新しい間取りや仕上げ、家具を重ねていきます。既存のモデルが正確であれば、壁を抜いた場合と残した場合、床材を変えた場合など、複数の案を同じ条件で比べることもできます。

間取りを大きく変える計画では、室内の目線パースに加えて、上の画像のように住戸全体を上から見せる平面パースを用意するのも有効です。どの壁がなくなり、どこが広くなるのかが、図面よりも直感的に伝わります。
ビフォーアフターの見せ方
ビフォーアフターで説得力を出すコツは、条件をそろえることに尽きます。
まず、現況写真とパースのカメラ位置を合わせます。写真を撮った場所の高さと向き、レンズの画角に近づけてパースのカメラを置くと、同じ部屋が変わったことがはっきりわかります。角度がずれていると、別の部屋を見ているような印象になり、比較の意味が薄れてしまいます。そのため現況写真を撮るときは、撮影した位置と高さをメモしておくと後で役立ちます。
次に、時間帯と明るさです。曇りの日に撮った暗い写真の横に、晴れた昼の明るいパースを並べると、変化が大きく見える反面、誇張しているように受け取られることもあります。比べやすさを優先するなら、同じくらいの光の条件で描くほうが誠実です。
見せ方としては、2枚を左右に並べる方法が一番シンプルです。Webで見せる場合は、スライダーで切り替えられる形式もよく使われます。
失敗しやすい4つの注意点
1. 既存の梁や下がり天井を消してしまう
見栄えを優先して、パースから梁や下がり天井を省いてしまうケースです。完成した部屋に立ったとき「パースにはなかった」と気づかれるのが、リノベーションでは一番まずい結果です。梁はむしろ、木の化粧材で見せる、照明を仕込むなど、デザインの一部として描くほうが提案としても強くなります。
2. 窓の外の景色を盛ってしまう
実際の窓の外は隣の建物の壁なのに、パースでは緑や空が広がっている。明るく見せたい気持ちはわかりますが、これもすぐに見抜かれます。窓の外は、現況写真に写っている状況に近い景色で描くのが基本です。

3. 解体してみないとわからない部分を断定してしまう
床下の配管や壁の中の柱は、解体するまで正確な位置がわからないことがあります。キッチンや浴室の位置を大きく動かす計画では特に、パースの段階では「想定」で描いている部分があることを、施主の方と共有しておくべきです。資料に一言添えておくだけで、工事が始まってからの行き違いを防げます。
4. 照明を新築と同じ感覚で計画する
既存の天井高が低い場合や、天井を上げられない場合、新築と同じ照明計画では暗く見えたり、器具が圧迫感を生んだりします。パースは照明の検討にも使えるので、間接照明の位置やダウンライトの数を、実際の天井高で確認しておくと安心です。光の考え方は内観パースの照明設計とCGライティングの記事で詳しく紹介しています。

依頼の前に用意しておきたいもの
リノベーションのパースは、既存の情報がどれだけ揃っているかで精度とスピードが変わります。
- 各部屋の現況写真。部屋の四隅から中央に向けて撮ったものと、天井、窓まわりの写真
- 既存の図面、なければ実測の寸法(天井高、梁の位置と寸法、窓の位置と大きさ)
- 新しい間取り図と、仕上げ材の品番や色の指定
- 残す建具や柱、再利用する設備など、既存のまま使うものの一覧
写真は少し多いくらいがちょうどいいです。1枚の写真からは読み取れない寸法も、別の角度の写真があれば推測しやすくなります。
パースが仕上がってからの修正の伝え方については、建築パースの修正依頼のコツをまとめた記事も参考になります。
静止画以外で見せる方法
部屋のつながりや、壁を抜いたあとの抜け感を伝えたい場合は、静止画より動画のほうが向いていることもあります。玄関からリビングへ歩いていくように見せるウォークスルー動画は、リノベーションの提案にも使われています。費用や活用例は建築ウォークスルー動画の記事をご覧ください。
よくあるご質問
Q. リノベーションのパースは、どのタイミングでつくるのがよいですか?
A. 間取りの方向性が固まり、仕上げ材を選び始める頃が目安です。早すぎると変更のたびに描き直しが増え、遅すぎると判断の材料として間に合いません。
Q. 床材や壁の色を何パターンか比べたいのですが。
A. CGパースなら、同じモデルとカメラのまま素材や色だけを変えた比較がしやすいのが利点です。条件がそろっているので、施主の方も違いを判断しやすくなります。
Q. ビフォーアフター用の現況写真は、どう撮ればいいですか?
A. 部屋の隅から対角線方向に、目の高さで撮るのが基本です。撮影した位置と高さを記録しておくと、パースのカメラを合わせやすくなります。
リノベーションのパースは、見慣れた部屋がどう変わるかを、工事の前に施主と共有するための資料です。新築のパース以上に、既存の条件を正確に描くことが信頼につながります。梁を消さない、窓の外を盛らない、わからない部分は想定だと伝える。この誠実さが、結果として提案を通りやすくします。
室内のパースについては、Basic9studioのインテリアパース制作サービスのページでご紹介しています。外観や動画を含む制作メニューはサービス一覧をご覧ください。リノベーションの計画でパースをご検討の際は、現況写真や手元の図面をご用意のうえ、お問い合わせフォームからご相談ください。
